緊張感
学生時代に私はレストランでアルバイトをした経験があります。最初は近所のファミリーレストランでした。その時は結構繁盛しているお店でしたので、お待ちのお客様のお名前を呼び、呼ばれたお客様の名前を二重線で消してお席までご案内している普通のレストランでした。
二重線でお客様の名前を消すことや、空いている時であっても、お客様の要望も聞かず席の場所を指定することも、注文時にオーダーの確認をしたにも関らず、持って行った時に再度「オムライスはどちらの方ですか?」と聞くことに対しても何の疑問も感じずに日々を過ごしていました。そして次にアルバイトしたところは京都の一流ホテルのレストランでした。そこで最初に言われたことは「全てのお客様を総理大臣だと思って対応しなさい」と訳の判らないことでした。その為、教育が徹底されており注文を伺う時は靴屋さんの様に目線を下に跪く感じで聞くことを練習させられたり、ご注文の確認をした場合、お持ちした時に必ずオーダーされた方の前に確認しなくても出すように覚えこまされたり、席はお客様に選ばせて上げる様な確認をしたり、プロとしてフロントに出る訳ですから本日のお薦め料理を毎日のごとく厨房に覚えさせられ必ずお客様へ伝える様にさせられました。
当時は、時給というよりも女の子との出逢いをアルバイトに求めていたバカ学生でしたので、邪魔くさそうに対応していましたが、明らかに前のレストランと一流ホテルのレストランのお客様の食べ終わって出て行くまでの顔付きが全く異なるという印象をバカな私でも、それとなしに気付いていました。
どんなに美味しいレストランでも、窓側が空いていて座りたいのに、作業効率が良いからといって入り口近くの席に連れて行かれたりしたらテンションは、間違いなく食べる前から下がってしまいます。また小売店でも、まだ色々と商品を見てみたいのに、横から「この商品がお薦め」とか「新作」とか「人気」とか言われて売り込みトークを羅列されても急に熱が冷めて出て行きたくなる心境も、全てお客様に対する主導権の奪い方への問題にあると思います。
別に総理大臣は大変な仕事だと思っても偉いとは思いませんが、目の前のお客様に対してそれぐらい緊張感を持った気構えで望むことを忘れてしまうと、無意識にボロが出てしまって、お客様を失ってしまいかねません。
優秀な人は、経験をどんなに長くそのお店で積んでいたとしても、常にこの緊張感を持ち続けられる人なのだと思います。